思い出の散歩コース。 カヤバ珈琲 → 喜久月 → 谷中岡埜栄泉

 
94歳の大往生。
祖父は甘いものが大好きでした。
 
昨年、亡くなり、もうすぐ迎える一周忌。
 
祖父が好きだったものをお供えしようと思い、谷中へ少し足を伸ばし、買い物へ行くことにします。
 
言問通りを鶯谷 北口方面へ進み、坂を登って、上野桜木に出ます。
 
そのまま言問通りを行き、谷中の墓地を越えると「カヤバ珈琲」が見えてきます。

祖父との散歩コースは、こちらの「カヤバ珈琲」でまず一服するのが常でした。
 
「コーヒーって苦いな。なにが美味しいのか、さっぱりわからない」
 
と毎度、毎度、文句を言いながらも、必ず立ち寄る珈琲店でした。

祖父が座るのは決まってここ。
 
やわらかな陽射しが差し込み、道行く人が見える、この席です。
 
外を眺めながら、コーヒーをすすり、祖父の昔話が始まるわけです。
 
幼心に「またか・・・」と思いながら、メロンフロートが来るまで耐えました。
 
「カヤバ珈琲」の創業は昭和13年。

70年近く営業したのち、オーナーがお亡くなりになり、お店は閉店しました。
 
3年ほど、シャッターは下りたままでしたね。
 
いまは若い方たちが引き継ぎ、お店をやってらっしゃいます。
 
こちらは2階の座敷。

私が子どもの頃はたしか、2階は使っていなかったと思います。
 
ちがっていたらすみません、記憶が曖昧です。

創業からのメニュー「ルシアン」と「たまごサンド」は健在です。
 
「ルシアン」は、コーヒーとココアを半分ずつで割った温かい飲み物です。
 
これは当時のオーナー榧場(かやば)さんが考案したオリジナルの飲み物。
 
「ルシアン」を再現するにあたっては、むかしからの常連さんたちに試飲していただき、当時の味を思い出してもらい配合などを決めたんだそうです。
 
それと「たまごサンド」。
 
普通はゆで卵を作ってマヨネーズで和えて、という感じだと思いますが、こちらは厚焼き玉子をサンドしているのが特徴です。
 
「カヤバ珈琲」は、土日ともなると行列ができていますが、平日の午前中などはわりと入れます。
 
むかしからの常連さんたちも、モーニングをしにいらっしゃっているようです。
 
さてさて、一服したら、その先の和菓子店「喜久月」へ向かいます。

こちら創業は大正6年。
 
文豪・川端康成や彫塑家・朝倉文夫、俳人・中村汀女らが、かつてひいきの店として足繁く通ったという和菓子屋さんです。
 
祖父はこちらの「あを梅」が大好きでした。

京の白味噌と砂糖を入れて練り上げた白餡を、抹茶を含ませた求肥で包んだものです。
 
ふっくらとした梅を思わせる、こぶりな姿。
 
口に入れると、やさしく滑らかな舌触りに心もほころびます。
 
口いっぱいにひろがる上品な甘さと、求肥のしっとり加減が口の中で溶け合って、この上ない美味しさです。
 
なんて、偉そうに書きましたが、子どもの頃はこの美味しさがちっともわかりませんでした。
 
今は、このような菓子を食べさせてくれた祖父に感謝の気持ちでいっぱいです。

こちらは季節の上生菓子です。
 
「おもたせ」におすすめです。
 
本当に美しいですね。
 
食べるのがもったいなく、ついつい眺めてしまいます。
 
「あを梅」を包んでいただき、お店をあとにします。
 
そして、もう1軒。

明治33年創業、4代目が暖簾を守る和菓子店「谷中岡埜栄泉」へ。
 
カヤバ珈琲の少し先にあります。
 
その趣ある店構えが、上野公園へと続く散歩コースのランドマークになっています。

第二次世界大戦末期、空襲されるという噂が絶えなかった谷中町は被害を最小限に留めるためにこの一帯を更地にしたんだそうです。
 
同店もその時、店を閉め、建物を壊したと聞きました。
 
その際、店のこの看板は近所のお寺に預け、守ってもらったのだそうです。
 
祖父は喜久月の「あを梅」と、こちらの「豆大福」をセットで必ず買って帰りました。

近所の人たちに愛され続ける同店の「豆大福」

甘さ控えめの餡を柔らかくコシのある餅で包んでいます。
 
私は、こちらの豆大福は、餅が非常に美味しいと思います。
 
コシの強さと柔らかさが絶妙なんです。
 
午後の早い時間のうちに売り切れてしまうことが多いです。
 
女将さんが言いいます。
 
「うちの豆大福は、ずるいことしてないから今日中に食べてくださいね。お餅が固くなっちゃうんですよ」と。
 
「でも、もし固くなっちゃったら、トースターであぶって食べてみて。美味しいのよ。こんなこと職人さんに言うと怒られちゃうから内緒よ」
 
豆大福は、もちろん、買った当日に食べます。

でも、女将さんが教えてくださった食べ方、トースターであぶるのも好きです。
 
ぜひやってみてください。
 
内緒ですよ(笑)
 
それと、こちらは祖母が好きだった「浮草」

かつて谷中の地で広く栽培されていた「谷中生姜」にちなんで作られた「浮草」は、生姜を練り込んだ皮で餡をコーティングした焼き菓子です。
 
生姜がほんのりピリッとしてアクセントになっている名物菓子です。
 
祖父は、祖母にもちゃんと、この浮き草をお土産に買っていました。
 
甘党の祖父との散歩は、この後、上野公園を通って、不忍池を歩き、上野に出て、入谷に帰ります。
 
途中、上野でお蕎麦屋さんに立ち寄ることもたびたびありました。
 
このお蕎麦屋さんは、またあらためてご紹介しますね。
 
 
◆カヤバ珈琲
http://kayaba-coffee.com/

 
◆喜久月

 
◆谷中岡埜栄泉
https://www.yanaka-okanoeisen.jp/